メランコリア
ミキサーで泡立つミルクのような私は
片手で涙をぬぐう仕草だって
かなしみのひとつという
調理器具をとりだし
あるいは怒りのそれとして
このしゃもじがある
白米のとげとげしさを
これがつぶしてしまって
まるで大衆を殺すようだと
私は言って泣いた
それがかなしみのひとつという
洪水の渦は沢山のものを巻き込むあられもない生野菜や肉片のくねりとクズが絡み合ってなまめかしくあざやかなかれらは新宿のネオンみたいに視界をめぐる
歌舞伎町におじゃましました。
8cmピンヒールで台所に立つ私は
かじかんだつま先の感覚がもはやないことを
まるでセックスの時みたいだと思う
泡立つミルクのような洗剤が
私の手からあなたのコップへと移行する
まるで受粉だと思う
私ったら、インバイのようだ
と水を張った鍋からのぞく
茶色い髪の女が言った
気泡を丸め込んだキッチンは
本日の卵焼き
の残りカスをきれいにたたむ
不自然な青色の洗剤は
まるで私の幼少期だった
第一回三文賞 佳作
小林青ヰ「メランコリア」
2013-11-04 Twitter Interview, Kobayashi Aoi × Ishikawa Fumio.
詩歌「メランコリア」について、小林青ヰに訊いてみる