糸と歯


もうすこしで詩になりそうだった言葉の断片が
崖から転がり落ちて死んだ
詩とはなにか?
詰まる所
詩とは冷蔵庫の中で疼くまりながら太陽に向かって手を掲げるように冷凍室へ続く穴に手を伸ばし凍りついた手でライターの火を灯し続ける事かもしれん
詰まる所
詩とは身体を16分の1に縮小した後に電子レンジの中に入り大きな鳥のカラアゲと一緒に回り続けていずれ蒸発する時の心情を克明に描写する事かもしれん
詰まる所
詰まる所とは君に出会ってしまった東高円寺のT字路
君は北国から来たファシストで
僕は東方からのルンペン
あれは八月の暑さとエロスの残滓が折り重なった九月十三日?
君はレフティーモンスターであるにも関わらず
広島市民球場の右バッターボックスに7番指名打者で立っていた
君が九回表に流し打った八月のセカンドフライ
奇しくもヤンキースタジアムの遊撃手として立っていた前世の連帯保証人には届かず
明治神宮で十一月の浮浪者のバイトをしていた僕のグローブに
魔法少女のため息として吸い込まれた
ボールとしての言葉と
赤い縫い目としての意味
コルクに秘めた I love you を理解するには
あの頃の僕はあまりにも子供だったし
おまけに電子レンジによってパスタが茹で上がることさえ知らない
ただの卵かけごはんだった
改めて問おう
詩とはなにか?
詩とはある主体的事象が客体的な美にまで舞い降りる時の過程で生じるささやかな核融合分裂による放射のように
君に恋したことかもしれん
この瞬間!僕と一緒に居間で紋切り型バラエティー番組を見ていた血友病おじぃちゃんがテーブルの上に置かれた蜜柑を食べようと手を伸ばし皮を剥こうとした所ヘタから突き上げる形で巧妙に仕掛けられた君の半透明マチ針で親指を刺し血を流しすぎたために死んだ!




二千十三年十二月三十一日








第二回三文賞 佳作
凸森一平「糸と歯」

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