廃線のまくら木の歌


廃駅のベンチで。廃線のまくら木からだ四角くし来ぬ汽車を待つ今日も明日も。身体を起こし。定型でうかぶ俺の感想どこかコンサーヴァティヴなファストフード。思い出が歩き始める。ひとりのみ夜に狩るものうらみとそねみとねたみとねずみと。
リュック・ザックに。ついに本土侵攻開始さるひきこもる友からのメールがカナシ。詰め込まれている。轟轟とゲリラ豪雨のくる夜は軒下の亀首をすくめる。昨日の。おじさんがコンビニ駈けこんで奇声を上げて走り去りたり深夜。断片が。身ぶるいするほどに恥ずかしい日々があって盗んだ酒の味があるかも。
脳髄の。夜の電車 通路をはさみ対面す 女と翁の仮面をつけて。襞襞に。わいせつなワイシャツ照らす蛍光灯通路をすぎる冷たきものら。こびりついている。いつわりの希望をいだき船をこぐ少女のふとももきよらかにとじよ。恥垢のように。口開き疲労が眠る座席には今日と同じ明日が座る。
峠を。縦と横と斜めに雨はふりしきる傘は役に立たない直角もない。越えて。過去を切り裂く八神純子の高音は行徳の不道徳を暴き。
都市に。秋立ちぬ暦の上だけ列島の道路は燃えて焦げる蜉蝣。下りる。一隅に仮寓をかまえ偶然の遭遇待てり我の境遇。他者に。負けるとわかっていてもカマキリは怒りの鎌をふりあげるのさ。逢うことは。この世に幕引きをするための道具はすでにととのっている。ありえないと。寓話という形でしか伝えられない虚実あり孔子挙隅。
わかっているのに。噛むほどにうまみが増す焼きジャケの皮と身の間が好き。なぜか。ハブ空港待合室に言語交錯バベルの塔崩壊以後の断片。道路沿いに。夏は暑い冬は寒いと文句言いこうして我は老いていくかも。公衆電話が。二十一世紀の精神異常者終え不意に落ちるiPodnano。あると。黒い泥満載にしたトラックが新月の街通過したり。
受話器を。瞬間に角度を変える鳥の首機械のごとく周囲を観測。あげてしまう。朝のたまごをとりにいく鳥小屋に白い命のぬくもりがある。返事は。白いめし黄色いたまご赤い醤油でかきまわす食の幸ありここに。ない。貝のから砕いてまぜる餌を食べたまごのからよ白く強くあれ。
遥か遠くに。枕木のごとき一首を日日に置き終着駅を目指す我かも。溜め息を。使われぬ鉄路は錆びて赤き血の凝固する無人の谷間。耳を澄ます。廃駅の山はだ湧きでる清き水 線路を渡り谷へと下る。







第三回三文賞 佳作
笛地静恵「廃線のまくら木の歌」

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