ほうふく


息、苦しいよね
あと何秒間、笑っていられる
何が面白いのか、わからないまま
ボッカンボッカン、腹を抱えて
孕んでは、産み、大破する事態
奥歯が吹っ飛び、ころがる
冷蔵庫をひらいて
西瓜はまだ冷えていないから
おやすみ、ってぶん殴る
ポーク、ポーク、ポーク
赦してください
僕のからだ、石鹸の匂いを
草と、風の匂い、洗い流されたまま
真っ白な開襟シャツに
焦げたゴムの匂いがする
汗をにじませて、ジュースミキサー
撹乱する花、肉とやさい、奥歯
やわらかいものだけ口に含みたい
わたし、わたしたち、浮雲
あたたかい雨、重くなる体毛
うがいをする猿
ニッタニタに口角を溶かして
何が面白いのか、わかったように
歯を磨く、子ども
子どもたち、プールサイド
白線の内側、整列する、肌、水泳帽
化学調味料の味、忘れたら
飛び込んで、手ぇ足、バタつかせて
深く、泳いでゆけるか
固いものだけ、にぎったまま
足もとどかない場所、まだ深く
風呂の栓を抜いて、叱られた
うずまき、きおく、飲みこまれて
きおくが飲みこんでいった
ひりひりと焼けた、からだ
まだ、泳げるよな、絶対
息、止めたまんま
あと何秒間、潜っていられる
きおくが希薄で膨張したら
あとは、水面に浮かぶだけの子ども
僕の肺、それが朝日にかがやく
睡蓮の間隙を狙って上昇し
呼吸をくりかえし
抜群に現代的できらびやかな泳法で
水を裂く雷魚みたいに清潔になったら
あの地平線から、この恋愛線
直結させて、背面跳び
死んだと見せかけて
金メダルぶらさげて
君の絶句の終わりまで
ふざけてヘラヘラしたいんだ
息、苦しいよね
あと何秒間、笑っていられる
象の目が見る世界で
ペラペラのナイロン
で、包まれた方向指示器
が、禁じられたスピード
で、くらくらするくらい高い場所から
投げ落とされて、砕け散って
てんでバラバラに方向が指示されて
目かくしなんてされちゃいないんだ
けれど、西瓜割りできない
方向音痴のふぬけた四肢を
冷たい末端を、ハイソックスに通して
磨けば光る、靴を履いて
とりすました顔でもしようか
何が面白いのか、わからないまま
抱えた腹ん中、希薄なまんま
僕の目は、路上から始まって
いまはただ、見るだけでいい







第三回三文賞 佳作
群昌美「ほうふく」

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