[LeOVE LeTteR]


このあいだの、12月の一番寒い日に、

お酒が欲しく真夜中にコンビニに向かう道で、

あなたとすれ違いました。

正確に言えば、あなたとすれ違ったような""がしました。

あなたは古き良きアメリカのファミリードラマの娘っこのような格好をして、

恰幅のいい顔のない男と一緒に歩いていました。

顔はあるけど、ガリガリの僕とは、違う、男と。

たのしそうでした。

うれしそうでした。

しあわせそうでした。

あんな顔を僕に見せてくれたのは、

お酒の力を借りた時だけでしたね。

あなたとすれ違った時の、感覚、交通事故のようでした。

知ってますか?

今まで、いつもどおり、一定の速度を保って、道路を走っているのが当たり前だと思い込んでいた車と車が、衝突する瞬間を?

ガッシャーン!

世界の終わりを告げるかのような大きな音とともに、

ャのに歪

ガラスというガラスは、な  パ 

街  の あ  か りを      させて  、

衝突した車が放つげ臭い色の煙、

焼きたてのパンみたいなんだ。

とっても、おいしそうな、焼きたてのパン。

それからの僕は、あなたの名前をFacebook検索するだけの存在に成り果てました。

仕事も辞めました。

今まで以上にお酒を飲むようになりました。

あなたの名前をFacebookで検索して、あなたが検索されない、安堵感

なぜだかわからないけど、それだけでこの先ずっと、生きていけるような気がしました。

でも、ある日、発見してしまいました。

あなたを。

名前は同じだったけど、出身地が違うし(僕の知っている場所とは)、趣味が違うし(僕の知っている趣味とは)、だいいち顔がぜんぜん違う(僕の知っている顔とは)

でもわかりました。

文体でわかりました。

あなたの書く文章は少しお茶目な蓮實重彦風の文体と、

所々に"名付け得ぬ"という単語が頻出していることで、

これは紛れもなくあなただとわかりました。

「あぁ、なんと名付け得ぬ旨さ!」(パスタの画像)

「沼袋でこのような不意打ちを食らわされるなんて・・・名付け得ぬ邂逅っ!」(ゴスロリ服の画像)

あなたは一度死んだのでしょう?

未だに“文体”だけが、今もインターネットの中で生きている。

僕が真夜中にすれ違ったあなたはきっと、

あなたの文体からこぼれ落ちた詩のようなものだったのですね。

明日からは仕事を探します。                       こ

お酒を飲むのも少し控えます。               あ     

あなたの名前をFacebookで検索するのももう辞めます。      な        で

あなたのことを、考えるのを、もう辞めます。     た     

僕の頭の中にあるあなたの文体を、詩殺す。     と    

この手紙があなたに読まれ、あなたが“無関係”という単語に触れて、

本当に無関係になる前に、あなたに一言言いたい。          

あなたに「死んだ方がいいよ」と言われたのが、うれしくて仕方がなかったぐらいに》








第四回三文賞 佳作
凸森一平「[LeOVE LeTteR]」

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