地球星


「お姉ちゃんが、帰ってきたよ」僕は叫んだ。パパが階段をかけ下りてきた。ころげ落ちそうだった。むかえに行こうとしていたのだ。外は大混乱だ。会えるはずがない。もう、すぐ、もどるから。僕が、なんとか、止めていたのだ。「よく、帰ってこれたな」「バスが途中で、とまっちゃって。山を越えて、歩いてきたの」汚れたズック靴を脱いでいる。母が、台所から出てきた。割烹着で、手をふいている。「ともかく、これで、全員そろったわね」安心しているのがわかった。母が、風呂をわかしておいた。姉が最初。それから、家族全員が入った。燦然と輝く夕焼けだった。夜だ。電気も、もう来ていない。夕方から止まっている。父がランタンに火をつけた。世界では、暴動が起こっている都市も、ある。悲惨な光景だ。しかし、過疎の村は静かだ。母が、おにぎりと、おみそ汁を、作ってくれた。ガスは止まっている。火は、父が持っていた、アウトドア用品の石油ストーヴを使った。若い頃は、山登りを趣味にしていた。死蔵されていた道具が、活用できるので、喜んでいる。父がコッヘルで、サッポロのチキン・ラーメンを作った。みんなで食べた。キャベツは、別の火で固めにゆでる。卵は、ふわふわに溶いた。器用な人だ。家の器に盛りつけている。父の料理なんて、母がカゼでダウンした日、以来だ。けっこう、おいしかった。きょうで、地球最後の日が来る。不思議な気がする。口に出すことはしない。「今まで、お世話になって、きましたけれど、今日で、さようならです。もう、限界です。ごめんなさい」みんなが、それを知っている。地球が、あやまってくれた。その言葉を信じている。わかっているのだ。「もう、暗いから、寝ることにするか」父の言葉に、それぞれの部屋に、もどった。しかし、もうすぐ、真夜中の十二時が来る。寝ていたはずなのに、全員が、一階の囲炉裏のある居間に集まった。僕も、勉強部屋から下りて行った。なんとなく輪になって座った。僕の手首を、左の母と右の姉の手が強く握った。真下から強い揺れが来た。牛の頭をした「僕を育ててくれて。ありがとう。また、いつか青い星の上で」光が、惑星地球の中心部から、吹き上がってくる。家の床板を、透かしてくる。まぶしい。すべてが、光りだ。







第四回三文賞 特別賞
笛地静恵「地球星」

Let's tweet.