信号機


信号機は進むべきものを止めるためにある

信号機は異なった方向に進むふたつを衝突させないためにある

すべてのものが同時に進むことはできない

あなたが進むということ

それは同時に他の誰かが止まるということ

そうしなければ

そうでなければ

感情の交差点は衝突事故でいっぱいになるだろう

午前4時

真夜中と朝の境界線上

練馬区の無人の交差点

僕は赤信号が変わるのをずっと待っている

この赤信号は誰のためにある?

この赤信号は何のためにある?

ブレーキペダルを踏む右足が攣(つ)りそうになる

目の動きは鈍重極まりない

ふと見上げると

空から小さな天使たちが現れて

信号機の赤をセルロイドのように剥がし

青のセルロイドを貼って

笑いながら去っていった

僕はアクセルを踏む!

君の赤いセダンが交差点の左から飛び出す!

君の赤いセダンは

僕の右半身をめちゃめちゃにしながらなお

交差点を突き進む

血飛沫が舞う

僕は右から灼熱を感じる

僕の右側は溶けている

僕の左側は冷めていて冷徹

君の赤いセダンは交差点を走り去る

微かに煌めくテールランプを左眼球が捉える

僕の右側はもう完全に溶けきってしまった

僕の左側は悟る

僕は半分眠ることが赦されたのだ、と







最近そんな妄想ばかりしています。







第六回三文賞 特別賞
凸森一平「信号機」

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