始発の街


海だったような気がしたふりむかない君の目のなかに泳ぐもの
終電は人ごみを奪い去ってゆき ふたりきりという名前の孤独
四丁目の一帯にビルがコンビニが沢山死んでいて(ほっとする)
永遠を知ってたはずの恋人たち そんな影にも見えるビル群
小山駅の構内響く弾き語り近づいてみれば椎名林檎の
十万円ぽっちで家を飛び出して生き延びてしまえることが怖い
領収証もらうことにも夕方に鳴るサイレンにも慣れてしまって
「逃避行のために使われるのは真っ平」って言いたそうな宇都宮線
砕いたり、咲いたり、破れたり、揺れたり 愛はいつも疎らに光ってる
エレベーター名付けられたままに動いて キスくらいしかできなかったな
頑なにただ頑なに駅にいる答えが出ないことも答えと
小指側の二本を黙って握らせてくれる分け合う熱もないのに
渡れそうにない橋に、桜花、流れ、何分か待っていて、  夢から醒め
始発までに君が来たなら東北へそうでなければ南へ帰る







第七回三文賞 佳作
北城椿貴「始発の街」

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