祈り ―木と私―


あなたはあした木になって私の前にあらわれる
樫 銀杏 メタセコイア くすのき
あなたはあした木になって私の前にあらわれる
梅 ななかまど

何かの若木でもいいよ
育ってくれるだろうか
私は幹を撫でて水をあげる
ずっとこうしてきたのじゃないかと 思う

奥深い森のさらに奥で 死んだ巨木が笑ってる
自ら枝を落としたのだ
あなたが木になったのは 私が願ったから?
森の木は
バトンを渡すはずだった木が消えてしまっても笑ってる
そんなそぶりはおもてへ出さずに



私がかなしくて笑っても
うれしくて泣いても
あなたは言葉を持たない

それでいい
泣いて泣いて私は雨になろう
あなたへ降ろう
怒って怒って笑って私は風になろう

あなたに触れる
身体も言葉も持たなければいい
いつか消えてしまうなら あなたへ降ろう
あたたかい春の雨になって
土へかえろう







第七回三文賞 特別賞
岸本琴音「祈り ―木と私―」

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