ローカルカラー



 im a HN poet, im into control, im out of control
 im a HN poet, im in a spiral
 im a HN poet, im beyond description, vraiment inestimable


    僕はハンドルネーム詩人、制御可能、制御不可能
    僕は螺旋、言い表せないほどの、価値の計りしれない



銀色にかげる100円で
少しだけ呼吸を思い出した熊のぬいぐるみはなか機械
空っ風に愛撫されるエプロンに見守られ、かわいい児童を背に乗せて
睨んだ、君と僕と、この街を
君は、屋上でたゆたう電子顔した懐メロに
中国製のヘッドフォンを取り出した
かわいそうに、安価なルサンチマンで
高額なプラズマに解像された金魚の尾は、くうをきる。くうをきる
空を切った
ちょうど、空腹に耐えかねた北朝鮮の野良猫みたいに

半開きのまぶた

子供と動物のお話なら泣くことができる?
まだ信じる余地が残ってる?
たとえば、物心ついたときには両親の肌が遠くにあった
孤児と仔犬の自主制作ドキュメント
下校を知らせるチャイムが嵩張り雲に吸い込まれ
スタバで今日も小休憩
咲き遅れた秋桜は、線路沿いの打ちっ放しを塗りつぶした
初雪が株券になる
鉄格子越しに傾いて消える校舎の裏の電波塔
ばかり見つめつづける君の中耳には
5年前に裏路地で流行ったモンドミュージック
妄想もされない明日、編集された昨日
不規則な現実を明るみにしながら
オフィス街のコンクリートはコンプリートへの成長を
諦めた
繰り返される時代に、だれもが予測できるハッピーエンドの物語に
白く汚れた復刻スニーカーを、一歩踏み出せばすぐ終わるのに
学術論文はネットで閲覧できても
郊外に位置する築10年の鉄筋アパートの六畳にある
詩集や小説やマンガやCDやLPやMDやDVDやFDやMOやCD−Rや
記憶メディアに縋った思い出をまだ捨てられずにいた
プロ野球選手にはなれなかった
代わりにサッカー選手が日の丸を背負った
回線に頼るフラットな人間関係を
ハンドルネーム詩人のレクイエムだけが鳴りひびく
理由が言語を紡がずに、言語が理由に置き換わる
もはや人称の固定ムリ
僕は、漫画喫茶で盗んだ山本直樹のマンガを片手に
君は、フリマ会場で拾った岡崎京子のマンガをモノクロームの手提げに
ラフ&ビーズ
魚喃はキリコぜんぜん笑えないと思お(撃)黒田硫黄にはもう飽きちたてへ男(沈)
雑誌が雑誌の特集を組んで、検索エンジンが検索エンジンを探し当てる
片付かない部屋、西日の差してた化粧室
換気扇から木漏れた午後が、記憶に浸かり
風俗嬢の吐く煙に溶けてゆく
14インチの赤テレビで踊る美乳アイドルのコメント
自分だけは正気だと信じてるのか、超音域でスタジオの気分を凍てつかす
オタクが萌える
常連のあの客、きもくない?
ヘドい口臭で舐めてくんのよ、濃い、濃すぎ
32歳主婦マリさんのプロフィールは24歳OL
事あるごとに僕のお尻を触っては、野球選手には向かないね
僕が入れた麦茶を一番美味しそうに飲んだ
なんで泣いてるの?
早番でNo.2だった君の初体験は三人
他の姫の会話に加わらないで
いつもマンガにばかり斜の視線を焼きつけた
毎日、毎日、同じ場所で、同じ姿勢で
狂った雌花みたいな匂いを撒き散らして一体
何本の権力を胃で消化したら満たされる?

      半開きのまぶた

            半開きのくちびる

   半開きのこかん

         好きだった

初めて言葉を交わしたあの夏の午後
詩を書いてるて告白したら小さく頬を緩めてくれた
君に一番似合ってたコスチューム
幾億もの精子に彩られたチープな縫い目のセーラー服
赤リボンを結ぶ白くて華奢な人指しが、僕らを照らす陽射しに撃たれ、震えてた



震えてた。



      2001年、冬のデパート、屋上で、



 だから僕らは、


                               キスをした、
       キスをした、
                    キスをした、
    キスをした、
             キスをした、
                          キスをした、
         キスをした、
       キスをした、


  いつまでも、
             キスをした、
       キスをした、
     キスをした、
                         キスをした、
        キスをした、
            キスをした、
      キスをした、
       キスをした、
                 キスをした、
     キスをした、
          キスをした、
                            キスをした、

 いつまでも、キスをした、
       キスをした、いつまでも、
   キスをした、        キスをした、        キスをした、        キスをした、        キスをした、       キスをした、        キスをした、       キスをした、      キスをした、          キスをした、いつまでも、

  いつまでも、キスをした、
         キスをした、いつまでも、
 いつまでも、キスをした、
     いつまでも、いつまでも、キスを、
      いつまでも、キスを、いつまでも、キスをした、
    いつまでも、いつまでも、    キスを、

              キスを、
   キスを、
                       キスを、
        キスを、
                  キスを、
  キスを、
            キスを、
      キスを、
                            キスを、
                                   キスを、
                    キスを、
         キスを、
 キスを、
      キスを、
                               キスを、
                       キスを、
               キスを、
   キスを、
            キスを、
                          キスを、
                                     キスを、
                     キスを、
         キスを、
                                 キスを、
  キスを、
                  キスを、
                         キスを、
           キスを、
                                         キスを、
       キスを、
   キスを、
             キスを、



                              キスをした。



 im a HN poet, im into control, im out of control
 im a HN poet, im in a spiral
 im a HN poet, im beyond description, vraiment inestimable


    僕はハンドルネーム詩人、制御可能、制御不可能
    僕は螺旋、言い表せないほどの、価値の計りしれない







第七回三文賞 i氏賞
石川史夫「ローカルカラー」

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