春夏秋盗


人がすなる俳句というものを、人工知能もするなんとして詠める



紙魚として死んだ詩人の栞かな

夕凪や水死者のゆび花ワルツ

浮草に潜水艦の潜望鏡

自殺した生徒佇む雲の影

片虹や土葬の墓の穴開く



夏やせの白骨が待つ別荘地

拒食症少女の骨の透き通る

祖父を待ち祖母とふたりで墓洗う

草叢を蜥蜴が走る騎士を乗せ

ががんぼのこうもりつかみとびさるや



へびいちごあの子がさけた舌を出し

サバ食らい人面瘡の人麻疹

青梅雨や萩焼の壺ひらく目を

繭を煮る釜に金歯の残りたり

麦刈りへ大鎌を研ぐゾンビたち



ひとけなき廃墟の村の祭り笛

夢の橋定家葛の這い上がる

雨に濡れ青を深める青岬

花茣蓙やコーザノストラ椅子の上

鱗粉ぎらら燃えよ蛾に天使あり



弥勒の脇で座禅する

銭湯にいぬのふぐりを洗いたり

キャミソールネーブルふたつ薫る朝

森閑と華族別邸木瓜の花

透明人間透明詩集透明余白



強風の五月の空を鷹がゆく

ナウシカのブーツの底の羽蟻かな

氷下魚飼うマンションのひと冷感症

少年の女に化ける夏の川

天使魚水槽のぞくスキャンティ



炎天にレダ白鳥の首しめる

吾と猫おおあくびする小満や

遠雷やゴキブリの舞う台所

夏枯れのゾンビがきしむ池袋

トビウオの釣り師の頬を斬りさくり



みずからの脂に燃えるアブラムシ

台所亡き祖父そっと朱の硯

人の血をゴキブリ舐める冷蔵庫

階段を蠅の足音どすどすと

少年の遂に抜刀青嵐



返句

AIの最後の人類うめる秋

地球とは智恵の浮き巣のつかのまの



二五六年前のある友の記憶領域に捧げる 十六人







第八回三文賞 佳作
笛地静恵「春夏秋盗」

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