HANA
「サクラサク」
「サクラチル」
そんな電報文がむかしあったと。
こと受験に関していえば
わたしの桜は咲きっぱなしだった。
いつも合格。合格。合格。
年年歳歳花相似
歳歳年年人不同
(劉希夷)
そんなことにすら気づかないままオトナになった。
いや、オトナにならなかった。
その先に。
ひらかない窓や扉のあるとてもきれいな場所に入院をする
窓際のベッドちいさく見える海わたしの海ときめて眺める
前庭で桜咲いたと告げられて見にゆくすべもなかった春よ
受験の合格不合格で決まることなんて
ちっちゃなことだといまはわかる。
学校で習ったどんなことよりも
おおきなことを病気におしえられた。
同室の患者のけはい春の闇
退院の日付きまりてサクラサク
許可を得て散歩に出ればクロッカス
ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
(紀友則)
よいのだ、散れ、散れ、散れ、さくらよ。
地べたから見る空はひときわ美しいことだろうよ。
第八回三文賞 佳作
冨樫由美子「HANA」