つゆ
繭玉のなかでメロンをたべる
スプーンでえぐった水たまりはあまい
すずやかであまい肌色のさざめきが
ゆめの螺旋をかけおりていく
*
わたしたちはそれを
はっきりと思い出すことができる
雨にみまわれた海岸で工業団地で
それから
ふいにあらわれた
納骨堂、という簡素なひびきを背景にして
列島各地
あじさい通りを駆けぬける
つながれた手と手のはざまより
なおほの暗いわたしたちのやさしさ
襖にえがかれた草花はほのめかしていたのだろう
連なっているようにみえる
けれど黒い縁で区切られた感傷的な風景が
のびすぎた髪をひっぱる
そのしたたる水のようなあたたかさで
塀をよじのぼる蝸牛状のめまいを伴い
わたしたちは
くりかえしくりかえし学校へいく
ひとや虫や獣が
教科書であったりすることのしたたかさで
めくれないやわらかな臓物をめくる
そこにはおびただしい数の
メロンの種が詰まっていたから
わたしたちは
輪廻!
と歓声をあげた
*
*
よるべないつゆだ、雨が紡績している
なにかを迎えるように
わたしたち
繭玉のなかでメロンを食べる
第八回三文賞 特別賞
あやめ「つゆ」