密告


これはなんだろう

つきうごかされてようやっとうごいている先
端 というかんじ

蝿につきまとわれて

蝿をおいはらうしぐさをゆめの中でもくりか
えしている
右手をひらひらさせて
関節を鳴らす、プール している
それは 死んでしまった野鳩のめめのようで
あるが、食器と食器のぶつかりあう音とはほ
ど遠く、まひるの浴室にひってきする静けさ
をたえまなく滴らせている、くぐもらせてい
る 、から、だから とてもよかった
とても しろい貝の
臓物 とでもいうのだろうか、ひかりに透け
る襞を反芻して、そして、長いあいだ密閉さ
れていたため 窓をあけた瞬間、以外のもの
はみなふき飛ばされてしまった
水にまつわる名前の広場で
ひとかたまりになった感覚たちは 夢やうつ
つのなかへ投げ落とされる、 器
動物の骨でできた器、 そのように暮らすこ
とを強く希望していた
記憶
とおいとおいむかし
遭遇した
赤ちゃんや、友人や、モニュメントなどは今、
どこで どうしているのだろう


どうしているのだろう、考える
ここにアーカイブされている文書の、せつな
いほどひろい平原に浮かぶ、あの、遊覧船の
ような雲は透きとおる、習慣である、確実に
流れていく存在、であるから
滞留している、また そのような場所の


とても長い廊下に佇んでいる
等間隔にならんだ窓はすべて開けはなたれて
いて、流れこんでくるもの たちはしなやか
な 未成熟の月であったし、水際のカーテン
でもあった
だから、今が夜であり あれから
とてもながい月日が経過したのだと、気づく
ことができた
気づく ことができて
ここにいるような気がしない、それでいて確
実にここにいる、わたしは いつも、ひとに
優しくすることができなかった いつも
月のひかりで明るい 窓の外には、誰もいな
いなだらかな丘が続いている 性的な夢のよ
うに なんの脈絡もなく
始まりがあって、そしてとうとつに終わる
やわらかな、しろい、次の場所、になりなが
ら、とうとつに 終わる。







第九回三文賞 佳作
あやめ「密告」

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