夏雲やメンタルヘルスと青い空


夫に
メンヘラメールを送りつけたら
やっと夏が来た
生理がきたことはおしえてあげない
話をはぐらかすだけはぐらかして
わたしは「今日は夏至だからね」と言った
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飼っているねこが死んだ センセイという名前のねこだった
センセイは センセイと呼ばれるようになる以前
育児放棄されて 知り合いの知り合いの
そのまた知り合いのもう知り合いと呼んでいいかもわからない知り合いの
家の、庭の、犬小屋に居て
つまりは犬(チワワ)に育てられていたので
はじめて鏡を見たときセンセイの目は異様にひろがった
やけにひげの長い、へんなだなあ
なんて、思っているような顔だった
センセイは 飼い主のわたしのことを
おおきなへんな犬だと思っていたので たいへんよくなついたけれど
運命に呼ばれたのかなんなのか
海老蔵さんの奥様が天国へ旅立った日と同じ日に 突然 死んでしまった
センセイはさいごのさいごまで 自分を犬だと思っていたのだと思う
来世というような世界があるならば
その世界では 犬でもねこでもなく わたしの赤ちゃんに生まれてほしいと思う
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つまるところはみんな夏至にやられてる
生きる才能がないんだって
咲いてるだけできれいな花みたいには
薔薇みたいになれないんだって
セルフイメージにやられてる
だからわたしは みずうみにあった悲しい方の青を手に取りワイドショーを映す液晶に投げつけてやった
日本列島全体が一瞬 光ったかんじがして
この世界がだれのための世界なのか思い出したけれど それと同時に ニュースのなかにいくつ嘘があったかも知ってしまって
数えてしまって つらくなったので おとなしく寝ることにした
神様は平等なので 真夜中を殺した数だけ朝をくれた
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路地裏の、紫陽花が急に切れる道の、角に入ったら、昔住んでた家が潰れてた そんな思い出も サマードレスみたいに 夏用の憂鬱として いつまでもとっておこう 白鳥色の夏の中 あの公園のそば あたらしい猫が捨てられてる 国語辞典にないあたらしいうつくしい言葉を小学生が叫んでる 今日はロールカーテンを洗いたい あたらしい季節のあたらしい朝のために キリストより白くブッダより深い色彩をもとめて







第十回三文賞 佳作
北城椿貴「夏雲やメンタルヘルスと青い空」

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