テライサと隣人
T.
テライサは今日はとても忙しい
青い試験薬と蜻蛉の翅のようにひかる背広を街へ買いにいった
彼はいつ見てもかなしいくらい綺麗な顔をしている
予感のしているくろぐろとした死を ぴかぴかに磨いてそなえているために
子供たちの使命はいつからか なんにも知らずにテライサの周りでおどけている
これを神秘的な舞踏というのはチョット大げさ
家のちいさい畑でわららかな汗を畝の上に滴らせる隣人
白いピンホールカメラたずさえてガスのシャツを着て
真夏は飛んでいったから 真珠のような春が引きかえしてきた
「兄サン かわいらしい季節ネ」と少女が風すぎる道ばたで仕合わせそうにささやいた
秋は黒い眼鏡を掛けて ずうっと遠くの
O町でひかえめに眺めている
もうすぐ銀色に関係するひとつのメカニズムが
テライサの庭はるか上空で はりさけるようにはじける
第十回三文賞 特別賞
左久間瑠音「テライサと隣人」