アカシアの雨


サイレンが鳴り、正午を呼ぶ
けだるい声はアカシアの雨を歌い
直後に威勢ばかりで縁取られたシュプレヒコールが
アンポハンタイを叫ぶ
(アカシアの雨とは、どんな色だろう)
浸りすぎてしまったのだ
ラジオを消すことが出来なくなったのは
気づかない君の素振りでか
私の虚妄はいつの間にか、根が随分と絡んでしまう
見えなくなる君が最後に捨てた思想
そのあまりにありつくことも出来ずにいた
君は、もう、いないというのに
(なんていう雨?)(きっと緑だ)
擦り切れかけたフィルムの中にある
君の目が
今を見ることは
もう、ないというのに
私は卑しさ浅ましさと理由をつけて
もう虫の群がりだした
それを抱くことも出来ずにただ立ち尽くしていた
(こらえる息に肺があわだつ)
(己の納まる場所を速度と知る)
泳ぎだした、今日四回目のアカシアの雨が
また耳たぶをかすめていく







第十回三文賞 特別賞
北井戸あや子「アカシアの雨」

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