勾玉マトリョーシカ
わたくしの中の少女をともしつつロシア紅茶をのむ春の夕
わたくしの内側に少女がおり
少女の内側に幼い女童がおり
女童の内側でねむるみどり子
の内側でほのとひかるは勾玉
(勾玉は胎児の姿を象ったともいわれる)
その勾玉を首からさげて
踊る踊りは祈りと同義だ
(ほらごらん月が昇る)
月は満ちる月は欠ける
潮は満ちてそして引く
古代から繰り返される
生と死を織りなす踊り
わたくしの内側に母親がおり
その内側に祖母、曾祖母たち
そして高祖母たちがいて踊る
みな勾玉を胸にして月に踊る
わたくしの二重らせんの階段で踊るひいひいおばあちゃんたち
踊る、ひいひいおばあちゃんたち
第十回三文賞 特別賞
冨樫由美子「勾玉マトリョーシカ」