窓、手は届かなくてもそこに
高い場所にある硝子窓
見上げれば光を含んだ早朝の空
あの日見上げ無かった眩しい場所は
大気を攪拌させた後みたいに薄くて
一生この色は例えられない
あっという間に白くかわるまでの、一瞬の、攻撃と防御が止んだ
そんな時間があると、終わりがあるのだと分かる
ほらもう空は生身の身体を見せ始める
白い誰もいない朝、
昨日弾かなかったギターは三カポのまま
カーテンから溢れる光で輪郭をつくられている
弦はワイシャツが触れる弱い力でも音が出る
むき出しているあの細い線から
いつだって忘れてしまって構わない音が
ピアノは打楽器だと思います
僕も同じ気持ちでいた
叩いたことを覚えていたから
その奥に
鍵盤を導くハンマーと弦があることを知らないでいた
見えることが邪魔をする
雨に濡れた点字ブロック
凹凸に残る一枚の葉
黄色と青を混ぜると緑になる 確かにそうだった
青空、見えることに救われる
朝
強張りがほどけて
僕は手紙を書く振りをする
透明な空気の層に
余った便箋をかざしながら
丸め千切って 少し汚れたから
いい言葉が書けるだろう
その一行を読み上げるリズム、を許そう
読むよ
君が好きだった歌を僕が何度も弾いたことで、どうか今君がその歌を、嫌いになっていませんように。
第十回三文賞 功労賞
堺俊明「窓、手は届かなくてもそこに」