詩歌「メランコリア」について、小林青ヰに訊いてみる

去る2013年11月4日、東京流通センター第二展示場にて開催された、第十七回文学フリマに、第一回三文賞佳作受賞者の小林青ヰが参加。そんな慌しい休日を過ごしていた彼女に対し、僕こと、石川史夫が、受賞作「メランコリア」について、五つの質問を投げかけてみた。Twitter を介しての、イベント終了直後のお願いだったが、快く応じてくれた。

1. 着想、あるいは原風景

石川:着想と呼んでもいい、この詩の原風景は、僕が選評でも触れた〈料理をする女〉だと思うんです。小林さんの記憶に残る、昔のお母さんはどんな方でしたか。

小林:私の母という意味では、「昔のお母さん」は仕事の人だったので、あまり台所にいる印象がないのですが、そういう人がたまに台所にいると、少しヒステリーで憂鬱だった記憶があります。けだるげで、それはほとんど作業です。詩の女も同じような感覚でそこにいるんです。

石川:働いてらっしゃったんですね。

小林:働いていました。働いたあとの料理って、すごく重労働ですね、今になってわかりました。

石川:そうですね、そうだと思います。


2. 大衆と女性性と感情と

石川:白米を潰す描写には、ある種の気概が感じられます。しゃもじを武器に、闘っているんだと思います。この描写で白米に喩えられる「大衆」について、もし補足などがあれば、教えてください。

小林:「大衆」「みんな」「ヒト」、全体を表す単語で私はそれらを非難する表現をよくします。実はこういったものはストレスの対象として都合よく出てくる場合もあって、その場合の全体表現は意味のなさを含意します。いわば大衆とは自分のことです。自分と闘っているんです。

石川:「かなしみ」を伴っているので、一方的な憎しみではないと読んでいました。

小林:自分ってかわいいです。かわいくもあります。そして憎いです。憎くもあります。相反するものが一緒にあって、そういう状況が平気で成り立つのが自分です。それはかなしいことでもあります。石川さんの言う通りです。これはかなしくもあります。

石川:女性性の表現として、僕はありだと考えています。

小林:ありがとうございます。でも感情って難しいですね、いつだって説明しきれません。

石川:感情は宇宙ですね。自作で恐縮ですが、「台風が去ったあとに」では、もう分からないことにしちゃった(笑)すると逆に人の哀しさが表現できると言う(笑)

小林:宇宙ですね、感情って、これだっていう糸口がない。膨大なものを言語に集約させるのはすごいことです。その一つの方法に「分からないことにしちゃった」があるんですきっと。石川さんはすごいです。そういう苦悩って言語の限界の先をみる行為です。


3. 「卵焼き」と「渦」の謎

石川:読んでいて、できあがる料理がまったく想像できないんですよ(笑)料理名は唯一、最後の方で「卵焼き」が出てきますが、これは少し唐突に感じます。作中の「私」は料理をしているんでしょうか。

小林:実はこの女、料理をしていない!(笑)どちらかというと片付けているんです。それで「本日の卵焼き の残りカス」なんです。でも作るときも片付ける時も、場所は一緒ですよね、片付けていて、彼女のなかで一つまた料理ができてしまった、「私の幼少期」を想起させるようなものが。

石川:騙されましたね(笑)歌舞伎町トリップ直前の「渦」は、排水口ですか?


4. 題名の経緯

石川:題名が秀逸です。作品全体の暗喩になることを嫌うご年配も多いですが(笑)すごい正統で、潔いと思います。この題名を付けた経緯などがあれば、教えてください。

小林:題名はいつもすごく悩みます。それでこの作もどうしようかとえらく考えました。えらく考えて、ある日、ポンと、あ、メランコリアでいいじゃんって、思っちゃったんです。思っちゃったので、もうメランコリアしか当て嵌まらない気分になって、それで決めました。理由は不明です……

石川:いろんな意味で、奇跡の題名です(笑)題名によって、料理にならざる料理をしている可能性を捨て切れなかった(笑)

小林:あまり一つの解釈というものを求めていないので、料理をしている彼女、とよんでも全くかまわないと思っています。解釈の幅広さが出たならこの題名、大成功ですね!(笑)

石川:成功ですね(笑)昔あった好奇心を掘り起こされました。僕もまだ若いと(笑)


5. 技能のきっかけ

石川:こちらとあちらの〈境界〉を、高い技能で見事に表現していると思います。その技能を身に付けるに至ったきっかけは、ご自身ではどこ(なに)にあったと思いますか。

小林:高校の時分からすべてが嘘か本当かわからなくなってきた、という実感があります。でも案外とそれに同意する人がいない。いないなら説明するしかない。それが私のきっかけなのかもしれません。実は写実なんです。忠実にうつそうとして、こうなっています。もっと、もっとです。

石川:薄汚れた白い犬の描写の話があります。本質を説明するのに、ただの「犬」と言った方が正確か、「白い犬」と言った方が正確か。

小林:「白」という単語には清潔さが伴います。だから私は「犬」と言います。そのほうがゲスです。犬の見た目は後回しでいいと思います。

石川:ゲスとゆうか(笑)僕は誠実だと思いますよ(笑)

小林:誠実、と言われて、あ、そうですね、と思いました(笑)私はちょっと表現が乱暴でいけません(笑)

石川:根がまじめなのかもしれませんね(笑)ロックでした、ありがとうございました。

小林:まじめって、いいことですよ。ありがとうございました。


- 2013-11-04 Twitter Interview, Kobayashi Aoi × Ishikawa Fumio. -

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